「おんりーわん」 岳羽ゆかり×女主人公

 

今日は日曜日だ。ニュクス討伐まであと数日。そろそろニュクス討伐用の
ペルソナでもそろえた方が良いだろうか…。
そんな事を考えながら眞宵堂に行ってみようとダイニングまで降りた所で
何やらにぎやかな声が聞こえて来た。…たぶん、ゆかりと美鶴センパイだ。

「美鶴センパイ!」
「あぁ、ゆかりか。どうした?」

ダイニングにはどうやらアイギスとコロマル、それから先の二人だけがいる、そんな
感じだった。男子はどこにいったのだろう…またそろいもそろって「はがくれ」かな?
結局うちの男子どもは仲良いんだよね。

「美鶴センパイ、この間屋上に彼女誘ってましたよね?」
「…あぁ…そのことか」

!? お、屋上っっ!!
それって……美鶴センパイの『私の側にいろ』発言の事ですか!?

「彼女、あれから変なんです、何かあったんですか?」
「何かって…別になにもない、ただ私は私の気持ちを素直に打ち明けた
 それだけだが…」
「…気持ち?気持ちってなんですか?」
「……なんだ、ヤケに食って掛かるな、別に何を言おうと私の勝手ではないか」

おぉぉお…美鶴センパイその答え方はゆかりの怒りの炎に油を注ぐようなものです〜。
確かに「私と共に生きろ」とか言われましたけど、ワタシなにも答えていませんよねぇ〜。
いや、そりゃー、美鶴センパイは大富豪の頭取で、あの容姿で「私と共に生きろ」
なんて言われると誰だってクラクラきちゃいますけども…。

「そりゃそうですけど!でも…あたしの方が先ですから」
「な、何の事だ?」
「あたしの方が先に彼女とつきあっていますから!」
「!!」

ひーっっゆ、ゆかりっち〜!!

「ゆかりさん、つきあうって、どういう事ですか?」

ストップ!アイギス!!今そこでキミが入ると余計にややこしくなる〜!

アタシは階段の影から必死に3人の攻防戦を見守る事になってしまった。
あぁ…眞宵堂に行きたいのにな…なんで裏口は鍵がいつもかかってるんだか…。

「アイギスはややこしくなるから黙ってて」
「いいえ、ゆかりさん、あの人の事となると私も黙っていられません」
「アイギス、これは私たち二人の問題だ。キミにはご遠慮いただきたい」
「ですが、私もあの人の事を大切に思っています。私だって最後まであの人と一緒にいたい、
 そう思っています。だから関係ない事ありません」

ちょ、まずくない?
確かにゆかりの事もアイギスの事も美鶴センパイの事も大事だけど…
この状況はさすがに…てか、今出て行くとワタシ殺されちゃうわ。

「ゆかり、キミには巨大な組織を持つ家を継ぐという煩わしい腐れ縁などないだろ?だから
 この先、どんな男とも自由に恋愛できるじゃないか」
「お言葉ですが、自由に恋愛できるなら彼女が相手でも構わないということですよね?」
「私もあの人と一緒にいたいです」

美鶴センパイ、お言葉ですが、ワタシと一緒になっても世継ぎは生まれませんよ?
言っておきますが、くれぐれもワタシは女です。(汗

「センパイこそ、跡継ぎが必要なら尚更彼女と一緒になっても無駄って事じゃないですか」
「う…そ、それはだな…」
「お二人とも、あの人の事は心配しなくても大丈夫です。私ならこの先「死ぬ」事なんて
 ないですから、あの人の側にずっといてあげる事ができます」
「アイギス、恋愛ってのはね、そう言う事じゃないの」
「そうでしょうか?…というか、恋愛ではありません、私の場合、これは運命ですから」

あ…頭痛がして来た。
頭を抱えて階段の隅にしゃがんでいると急に背中を叩かれた。

「うぎゃっ」
「わ、びっくりした…こんなとこでどうしたの?」
「ふ、風花〜」

小さな小包をもった風花がワタシの後ろに立っていた。
不思議そうにワタシの顔を見た後に、言い争いしている声が
聞こえるリビングの方をこっそりとのぞいている。

「ゆかりちゃん達…なんだかみんなで喧嘩してるみたい」
「うーん…」

眞宵堂は明日の放課後にでも行く事にしよう。

「風花、ちょ、ここはまずいから上にあがろ?」
「え、あ、うん…いいの?止めなくても」
「あー、うん、ワタシじゃ無理だから」
「へー、無理な事もあるんだねぇ〜。ちょっとびっくりしちゃった」

ワタシは取りあえず風花の背中を押して階段をのぼり、モロナミンGを買って
一本開けた。

「よくそんなの飲めるよね、」
「うーん、慣れるとおいしいよ?」
「私は戦闘に立ち会わないから飲んだ事無いけど…名前がね」

アハハと風花が笑う。あぁ〜癒される〜。

「あ、そう言えばね、夏記ちゃんがねこれ、送って来てくれたの」

風花が大事そうにポケットから取り出したのはお守り。

 『なんとなくだけどさーあんた、大変な事に巻き込まれてるんじゃないかなーって
  気がして、とりあえず引っ越した近くにあった神社にたまたま行ったからついでに買った』

のだとか。ここの遠距離恋愛は実にさわやかだなぁ〜。
風花は嬉しそうにそのお守りを手のひらで包み、胸に当てる。

「だから、私もこの間お揃いのストラップを作ったから送ろうと思って下におりたんだけど」

風花は困った様に笑っている。確かにあの状況じゃ、風花も巻き込まれる気がするので、
ここで沈静化するまで二人で待つのが得策だと思う。
取り敢えずソファーに腰掛けてふたりで話をする事にした。

「あのね、鳥海先生の声ってなんとなく夏記ちゃんに似てるでしょ?」
「そーかな?」
「うん、だからね授業中に聞いてるとだんだん夏記ちゃんが側にいるような気がして…」

風花は顔を赤らめてうつむく。なんだかすごく微笑ましい。
そっか…こういう気持ちってなんだか羨ましいかもしんないなぁ。

「この間、鳥海先生に、あなた明るくなったわね〜なんて声かけられて、思わず
 夏記ちゃんに電話しちゃった」
「フフ、それって森山さんに話してみたの?」
「うん、そしたら夏記ちゃん、鳥海ってどんな奴だっけー?だって」

クスクスと笑いながら風花は嬉しそうに夏記の事を話している。
…大切なんだなー彼女の事が。

「あ、そろそろ荷物出しに行かないと、今日の集荷に間に合わなくなっちゃう…ごめんね」
「ううん、いいよ、くれぐれも巻き込まれない様に気をつけてね!」
「うん、ありがとう」

ワタシは喧嘩の原因がワタシにある事を心の中で風花に謝りながら手を振り、
仕方なく自分の部屋に戻った。

「フー」

そのままベットにダイブした。

…確かに、確かに「ゆかり」も「アイギス」も「美鶴センパイ」も大切な人たちだ…
だけど、それは仲間的に大切なのか…それとも、風花と夏記の様に繋がりたい対象なのか…。
正直な所わからない…。

風花はエラい。てか、夏記も風花の事をしっかりと守っていた。もちろん今だって
遠い所から、お守りまで持たせて風花の事を守ろうとしている。

そんな二人を見て、羨ましいと思った。

ぼうっと天井を見上げているといつもより数倍けたたましくドアがノックされた

「…だ、だれ?」
「あたし…ゆかり」
「あぁ…」

そろそろ決心した方がいいなぁ〜。と思いながらベットを降りてドアを開けた。

「…ど、どしたの?ゆかり」
「……別に…てか、ドア締めて」
「は、はい」

ドアの前に立っていたゆかりの目には涙が一杯たまっていた。
ゆかりに言われるままにドアを閉めると、同時にゆかりに抱きしめられた。

「ちょ、ゆかり?」
「……」

ワタシの問いかけに応じず、ゆかりは更に腕の力を強めた。
く…るしい…かも……。

「……きな…」
「え?」

震える様な小さな声でゆかりにささやかれる。よく聞き取れなくて
聞き返したんだけど、答えはすぐに帰って来ない。

「…す……きなの」
「……」

先ほどのリビングでのやり取りが思い出される。
多分、ああいえばこういう方式で美鶴センパイとアイギスにやり込められたのだろう。
ったく…あの二人には困ったもんだ。ゆかりに気づかれない様にため息を一つついて
それからゆかりの背中に手を回す。

「ゆかり」
「……」

呼んでも返事が返って来ない。…まぁ今回の喧嘩はワタシの3人への態度だって
事は重々承知だし。ゆかりを泣かせてしまったのは本当に申し訳ないと思う。
だからゆかりの背中をゆっくりとなでた。

ワタシが一番大切なのは「ゆかり」だってことは、ワタシの中でも気がついているハズだった。
だけど、これからニュクスを倒す手前、美鶴センパイやアイギスの気持ちを無下にできる訳には
いかない。二人ともに救いが必要だって事もワタシはわかっているつもりだ。

もちろん、ゆかりにだって救いが必要なのかもしれない。

ワタシが3等分できればいいんだけど、もちろんそんな事はできないから
だからワタシは一人ずつの気持ちを大切にしなくてはならない。
そんなでゆかりに「好き」の一言も、ワタシは言ってやれない。

「もぅやだよ」
「ゆかり?」
「不安なの、やだよ」
「ゆかり…」

さっきからワタシ、「ゆかり」しか言ってないし…。情けない…。

それからどれくらいゆかりを抱きしめていたのかわからないけど、
冷静になったのか、ゆかりが急にワタシから手を離した。

「ごめん、なんか…らしくないね、アハハ」

強がる様にゆかりは笑う。先ほどの風花の幸せそうな笑顔とはかけ離れてる
せつなくて、はかない笑顔。…夏記は離れていても風花にあんな幸せそうな
笑顔をさせる事ができるのに…ワタシはゆかりのこんなに近くにいるのに…。

「ちょ、どうしたの、なんであんたまで泣くのっっ」
「ぇ…?」

ゆかりに言われて気がついた。ワタシは泣いている。今まで泣く事なんて
本当になかったのに…。両親が亡くなった時ですら、泣いた記憶がないのに。

「ちょ、」

ゆかりは慌ててワタシを抱き寄せる。ゆかりのあたたかな体温がワタシの張り詰めた
気持ちをどんどんと緩めて行く。

「みんなを幸せにしたい」
「え?」
「ワタシはみんなを幸せにしたい…だけど…ゆかりをそんな風に無理して笑わせる事しか
 できないのなら、ワタシは……」

そこまで言うとギュッと抱きしめられて、耳元でゆかりに名前を呼ばれた。

「ごめん、ごめんね、あんたの背中にはあたしだけじゃなくて、みんなの運命も
 乗っかってんだもんね…こんなに小さくて細いのにさ…」

ゆかりがゆっくりとワタシの背中をなでる。さっきワタシが彼女にした様に。

「あたし、待ってるから。だからまずニュクスを倒そう?それから、あたしを
 一番にして」
「ゆかり…」

ゆかりのこう言う所にワタシはとても救われている。
そう強く思った瞬間だった。そして、ワタシを救ってくれるのはゆかりだと
言う事がはっきりとわかった。

「うん。わかった、かならず」
「期待してます」
「任せて!」

顔を見合わせると赤い鼻をしたゆかりはにっこりと笑う。赤い鼻の事を指摘すると
ワタシの鼻も赤いと言われた。だから二人で笑って赤い鼻をこすり合わす。
で、おでこをコツンと合わせる。

全部終わったらゆかりに言おう。

大好きだって。

おわり


 


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2010.3.30(tue) vike hina
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