「未来をキミと一緒に……」 岳羽ゆかり×女主人公

 

 年の瀬。綾時くんがシャドーで、宣告者だかなんだかで、記憶が戻ったアイギスは
綾時くんを倒しに向かい、逆に大けがを……ん?アイギスはロボットだから『けが』
じゃなくて『壊れる』と言う表現のがいいのか。とにかく、アイギスは療養中だし。
当の綾時くんは実はワタシの中にいたシャドーの欠片だとかなんとかで、彼は
ファルロスで…うわ、なんかぐっちゃぐちゃだ。

あげくの果てに春が来る前に世界が終わるとか…、僕を殺せだとか…。
綾時くんの暴走っぷりは少々眉唾な感じがするけど……でも、この一年の間で
そんな「理不尽」は何度も何度も普通に体験して来た。

だから今回もあっさりとS.E.E.Sのメンバーは事態を受け入れた。
なんだか凄い事になったけど、今日、綾時くんにその選択を伝えなくてはならない。
リーダーであるワタシが。

コンッコンッ

「起きてるー?」

ドアの外でゆかりの声が聞こえる。
丁度起きて髪をまとめていた所だったから、ドアを開けてゆかりを招き入れた。

「なんだ、未だ寝てたの」
「うん」

ワタシのパジャマ姿をみてゆかりが呆れているようだった。

「あんたさー…ちょっとは緊張感とかないわけ?」
「何の?」
「…そうよね、あんたってそんな人だよね」

そんなことを言いながらポンッと弾む様に彼女はワタシのベットの上に座った。
…ん?なにか浮かない顔をしてるみたいだ。
手に持っていたクシを机の上に置いてワタシも彼女の横に座る。

「緊張感って、なに」

聞いてみると彼女はますます目を見開いて、それからため息をつく。

「聞いたアタシが馬鹿でした」
「馬鹿?」
「うっさい」

ゆかりの顔がちょっとだけほころぶ。
それからじーっとワタシの顔を見つめてくる。

「あんたってさー、こうやってみるとちょっとイケテル普通の女の子なのにね」
「?ま、普通は頷く。イケテルはしらない」
「アハハ、ま、イケテルよ。うん、でも普通だけど、普通じゃないよね」
「そう?」

見つめ返すとゆかりはちょっと後ろにのけぞって、それから弾かれる様に
ベットにそのまま大の字に倒れ込む。

「ちょっとうらやましーなーって思う」

彼女がベットに寝転ぶからワタシは腰をよじって彼女の方へむく。
彼女の目は天井を見つめていた。

「あんたぐらい強けりゃ一人でも大丈夫だし、あ、別に前みたいに誰かに頼るのが
 嫌だとかそう言う意味じゃないからね……なんていうか、さ、強ければ、誰かに
 頼ってもらう事も出来るしなぁとか……」
「頼ってほしいの?」
「え?…うーん…頼れる人がいれば頼りたいし、守りたいって思う人がいれば頼られたい
 かな?」

なるほど、ゆかりは今、頼れる人もいないし、守りたいって思う人がいるけど、
強くないから自分では頼りないかもしれない…と、…相変わらずの苦労性だなぁ…ゆかりは。

「強い強くないとか、関係ないんじゃない?」
「え?」
「ほら、ゆかりはワタシの事強いっていうけどさ、ワタシはワタシでゆかりのこと
 頼りにしてるんだよ?」
「え、なんで?」

ずっと天井をむいていたゆかりがやっとワタシの顔を見た。
相変わらずのべっぴんさん。だねぇ

「ワタシに出来ない事いっぱいできるし、ワタシの事心配してくれたりするでしょ?
 ほら、ワタシにはそうやって心配してくれる人がいないからさ」
「あ……ごめん」
「いや、いや、ここはゆかりが謝るところじゃないでしょ」
「だって…」

クスクスと笑うとゆかりは真っ赤な顔をしてそっぽをむいた。
可愛いなぁ…ほんとにもう。

「ゆかりは優しいから」
「…風花ほどじゃないよ」

ちょっとだけ彼女の方へ体を傾ける。

「ゆかりはワタシを引っ張ってくれるから」
「美鶴センパイの方がそういうのうまいもん」

背中を向けている彼女の肩に手を置いてゆっくりと押すと、抵抗もなくこちらを向く。

「ゆかりはワタシの事ずっとみててくれるでしょ?」
「……アイギスだって…そうだ…もん」

視線を外す彼女の頬はこれ以上にないくらい真っ赤になっている。
多分、ワタシもそうかもしんない。

「ゆかりは……最後まで一緒にいてくれるでしょ?ワタシと」
「……うん」

小さく頷いた彼女は少し潤んだ目をしてワタシを見つめ返す。
「だから」とワタシはつぶやいて、ゆっくりと目を瞑るゆかりに顔を寄せた。

 *  *  *

「決まってるんでしょ?」
「うん」
「じゃ、あたしもソレに従う」
「うーん、多分従わなくてもいいよ」

つないだ指をゆかりはもう片方の手でちょんちょんと数えて遊んでいる。
よくやってるけど、クセなのか手持ち無沙汰なのか…。彼女の指先は
弓を引いているのにも関わらずとても綺麗だ。

「従うんじゃなくて…たぶん考えてる事一緒だからさ」
「……そっか。じゃ、あたしもあたしの意思…だね」
「うん」

寄せ合っている肩にゆかりが頭をのせる。それに支えられる様にワタシも
頭をのせる。

「忘れるなんて、とんでもないよね綾時くんったらさ」
「そうだね」

怒濤の様に過ごして来たこの一年間は17年ワタシが存在して来た中で一番
大切な時だったと思う。それを忘れるなんて……彼女を忘れるなんて…。

「死んでも嫌だね」
「あんたは死なないし、てか、あたしが守るから」
「……頼りにしてます」

ほら、頼りにしてるんだからゆかりのこと。ワタシがこうやって前をむいていられるのも
ゆかりがいるからで、いなかったら……むちゃくちゃ怖いよ。

「今日の夜、ニュクスと正面から挑む事を伝えるよ?」
「うん」

ゆかりは指を更に強くつなぎなおした。
彼女だって怖い。ワタシだって怖い。でも選択肢は二つしかなくて案外シンプルなもんだ。
きっとみんな同じ考えにたどり着いているに違いない。だってここまで一緒にやってこれた。
そんな大切な人たちだから。

「ねーニュクス倒したらさーあんた実は男でしたーとかいうサプライズないのぉ?」
「いや、根本的にそれ無理だから」
「もー絶対、結婚するー」
「うは、プロポーズ?」
「男だったらの話ー」
「なんかそれ辛いなー」

いつもの様に大声で笑い合う。こんなくだらない事だってなんだって今は
未来への希望になる。「絶対に倒せない存在」である物への挑戦に比べたら…

「結婚出来なくたってずっと一緒にいるよ」
「うーーーーまぁね」
「ま、その気になれば美鶴センパイ巻き込んでワタシ達の式挙げてもらおう!」
「わ、それ……ホントに出来そうで怖いわ〜…あの人なんだかんだ言っても
  桐条グループの頭取だし…」

ゆかりは顔を上げてうん、とうなずき、じゃ、それ約束。と小指を差し出した。
はいはいとワタシもうなずいて、差し出された小指に自分の小指を結ぶ。

「絶対約束だよ?」
「うん」

今日から一ヶ月後、ワタシ達はニュクスに挑む。

おわり

 


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2010.3.26(fri) vike hina
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