■『#6.君の名は・・・』

ちょっと・・なんで彼女のアタシが遠慮してるのに、あなたはそんなに簡単に
呼んじゃうのよ?アタシ一度言うのにも結構勇気出したんだからね!

「美希たん顔こわーい」
「なっ・・・」
気がついたらラブがアタシの顔をものすごい顔でのぞき込んでいた。
あなたの方が顔、怖いから。

今日は久々に4人でお出かけ。端から見れば仲良し4人組が楽しくショッピング
してるように見えるんだろうけど、実際は・・ダブルデート?
取りあえず服、雑貨、CDと見て、今はアクセサリーのショップにいる。
今日はココでブッキーとお揃いのアクセを買っちゃおうとか、気合いをいれて
来たのだけれど・・・なんだか今日はブッキーをせつなが独占しちゃってて
アタシの入る隙がないんだけどなぁ・・。

「ウヒヒー美希たん、あれだー!嫉妬してるんでしょ」
「そ、そんなこと・・・ないわよ」
「だって、今日はずーっとせつながブッキー独占してるから」
そう思うなら旦那のあなたが気を利かせてせつなを何とかしなさいよね。
と、思うんだけど、まぁ万年幸せゲット娘にそんな気の利いた事を期待
するほうが間違いよね。

「んじゃまそろそろ、せつなをあたしのトコに戻そうかね」
「別に・・ま、ラブがそうしたいならそうすれば良いけど」
「おぉ!美希たんツンデレだな!」
「誰がっ」

絶対最近ラブはアタシをからかって遊んでいるとしか思えない。
まぁ、ブッキーとの事になると極端にアタシ照れちゃうから
面白いのはわかるけど・・・。

ラブはヒラヒラっと手を振るとせつなのところに小走りで駆け寄り、
後ろから飛びかかってぎゅっと抱きしめる。せつなは驚くけど、もう
慣れっこで、当たり前の様に首に回されたラブの腕を両手でつかむ。

「いいなぁ・・・」
アタシには出来ない・・・。ていうか、キャラじゃないし。
ぼんやりラブとせつなをみているとラブがちらっとこっちを見てウィンクした。
はいはい、ブッキーを迎えに行けば良いのね。

「あ、美希ちゃん、あのね今せつなちゃんとこれ美希ちゃんに似合いそうだよね
 って話をしてたの」
「うん、祈里が先にみつけたのよ」

あ・・また・・・。

「ウンウン、確かに。クールな美希たんにぴったしだね、この色」
ラブが指差したそれは深い青色をした・・・ブルーサファイア?

「学業、仕事運の向上や冷静誠実、気品の象徴と言われているわ」
せつながアタシの顔を覗き込んでそう教えてくれる。さすがに
伊達に占い師をやっていた訳じゃないのよね。こう言うの詳しいんだ。

「うはっ!美希たんにぴったりじゃない!」
ラブはそう言いながらショーケースにピタっと張り付いてその石を見つめる。
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅ・・・・」
はいはい、本物の石なんて高くて買えないの。あたりまえじゃない。

「たはー無理だよ、これは中学生のお買い物じゃないよぉ〜」
「フフ、ラブ、天然ではなくて人工石なら結構安くて手に入るのよ」
アタシはラブの肩をポンと叩いて教えて上げると、なるほどーと言って
人工のブルーサファイアを探し始めた。・・というかショーケースから
離れてみたらいいのに。

「あ、この黄色いの祈里に似合いそうよ」
ラブが離れたせつなが再びブッキーを奪う・・て!!せつな!今日は
わざとやってない?・・・・・はぁ・・せつなに限ってそれはないわね。
「シトリン?」
「そう、水晶の一種でね、癒しや浄化の意味があるのよ、これなら
 祈里にぴったりね」
「わぁ!せつなちゃん、ありがとう、なんだか私、うれしいわ!」
自分が役に立てたという満足感からか、せつなはとてもニコニコ
して私も嬉しいわとブッキーに返した。

んーあまり気にする事ないんだけどなぁ・・。アタシだって簡単に
呼べるはずよ?だってあの子はアタシの彼女だもん。こんなに
悩む事なんてないんだけど・ ・

「ね、せつな、せつなーあたしの石選んで〜!」
「えぇいいわよ!」
ラブがせつなに自分に合う石を探す様せがんでくれたのでやっと
ブッキーがフリーになる。
ブッキーはというと、さっきせつなが選んだシトリンという
石が気になっているのかずーっとショーケースの中をのぞいている。

「欲しい?」
「え?あ、いや、でも高いから・・」
確かに。通常の中学生のお小遣いならちょっとしんどいわよね。
アタシは先月3回撮影が入ってたおかげで、まぁこれくらいなら
買ってあげられるかな。

「どの形が良い?買ってあげる」
「えぇ!?いやっっいい!!いいよぉ〜」
真っ赤な顔してブッキーが両手をぶんぶんと振りながら全力で
拒否する。・・んまぁ予想通りだけど。

「今日はアタシ、そのつもりで来たからちょっと多めにお金もって来たし、」
「だったらっっ」
ブッキーがアタシの言葉を遮る様に前のめりになって提案する、
「あ、あの・・アレをお揃いで買わない?」
ブッキーが指差したのは自分で配色を選ぶクリスタルビーズのストラップ。
確かにあれならお手頃で気軽に着けられるわね。

「ん、ブッキーがいいならそれでいいわ」
「ほんとー!良かったぁ〜」
アタシとブッキーはクリスタルビーズがたくさん並ぶケースの前に
やって来て、ブッキーはアタシの、アタシはブッキーの、それぞれに
似合うビーズと配色を選ぶ事にした。
ビーズを選んでいる時にふと注意書きを見つけ、プレートを買うと
今なら無料で刻印してくれると書いてあったので、まだ、選ぶのに
ずいぶんと時間のかかりそうなブッキーを確認すると、アタシはこっそりと
シルバーとゴールドのハート型のプレートを選んで刻印して事にした。

「ね、ブッキー今日、アタシの家で一緒に作らない?」
「うん!じゃぁ私が美希ちゃんのを作ってあげるね!」
「じゃ、アタシがブッキーの、ね♪」


商品を受け取って、アタシ達はまだ石の話で盛り上がっている
ラブ達の元へ戻った。



「じゃ、まず輪っかの半分まで作りましょ?で、あと半分は交換して
 最後は自分で仕上げるって言うのはどう?初めての共同作業・・・
 なんちゃって・・・」
「ウフフ、うん、わかったわ」
初めての共同作業ってはちょっと恥ずかしかったけど、まぁオッケーって事で。
アタシ達は今日の事を振り返ったり、色んなおしゃべりをしながら一つずつ
大切にビーズをつなぎ合わせる。

「出来た!」
さすがに器用なブッキーはさっさと半分まで作り切ってしまった。
ちょ、ちょっと待ってよぉ〜・・・。
アタシは悪銭苦闘しながらようやく半分まで作って、ブッキーの手に
持っているブルーがベースの作りかけストラップを渡す様に言った。

「美希ちゃんのやつは渡してくれないの?」
「ちょっとまって」
アタシは先ほど買ったプレートをごそごそと取り出して、シルバーを
アタシに、ゴールドをブッキーの黄色ベースのストラップへと通した。
「美希ちゃん、いつの間に〜!!」
「ま、ね〜。ハイ、あとはお互い自分で作り切りましょう」
何もなかった様にブッキーに黄色ベースのストラップを手渡すと
彼女は直ぐ、そのゴールドのハート形プレートに反応した。

「M to INORI・・・ってこれ私の名前・・」
「うん、アタシには・・I to MIKIって入れちゃった」
ヤバいくらい顔が熱くなっちゃったけど、でもちょっとしたサプライズ。
成功できてすっごく嬉しい。さすがアタシ!完璧!
「そっか、この M は美希ちゃんの M?」
「うん、アタシの I は・・い、祈里の I だよ」
体中がカーっと熱くなるのがわかる。どうしてこの娘の名前を呼んだ
だけでこんなにもドキドキしちゃうのか、わけわかんない。

「フフ・・」
「なに?」
「うん、あのね」
ブッキーが顔を真っ赤にして、ふにゃふにゃにとろけちゃいそうなくらいの
笑顔で両手で半分だけ出来たストラップをもってアタシに見せる。

「美希ちゃんに祈里って呼ばれると、ただ自分の名前呼んでるだけなのに、
 特別素敵なものに聞こえちゃうの。フフ、おかしいでしょ?」

あまりの可愛さにアタシはぽかんとしてしまう。それから、下をむいて、
すっごい脱力感が肩にのしかかる。アタシってば何気にしてたんだか・・。
アタシは顔を上げて彼女に向かって微笑む。

「当たり前でしょ、だって祈里はアタシの特別なんだから」
アタシも自分の作りかけのストラップを掲げて、ハートのプレートを
ピンっと指で弾いた。

「うんっ!」
同じ名前でも呼ばれる人によって特別になるのね。なるほど。
妙に納得して、妙に安心する。

「ね、美希ちゃん、これからも私の事、祈里って呼んでくれる?」
「え?・・・んーーーー・・・」
ヤバい、正直ちょっと恥ずかしい。というか照れちゃって上手く呼べるか
どうかちょっと心配。そんなのがラブにばれちゃったら、絶対にからかって
来るし、完璧なアタシが、完璧じゃなくなっちゃうし。

「だめ・・かな?」
「んー、じゃぁふたりの時だけってのはどう?」
「えーどうして〜?」

眉を八の字にしてぷーっとほっぺを膨らませてみせるブッキー。
そのほっぺを人差し指でプシッと潰して、アタシはブッキーの肩を抱く。

「ちゃーんとメリハリつけた方が特別な感じがするでしょ?」
「むーーーー」
むくれてるブッキーのほっぺにちゅっと音を立ててキスをする。
そして、はいはい、続きを作りましょーと、アタシは元の場所に
戻って作業をしようとしたら、

「こっちじゃなきゃ、イヤ」
とブッキーからアタシの唇にキスをする。・・・最近慣れたのかなぁ・・
やたらと、積極的にアタシの唇を奪いにくるんだから。ま、いいけど。

その内「キスだけじゃイヤ」とか言い出したらどうしましょ・・。
そんないらないことを考えると途端に顔が真っ赤になって体が熱くなる。
いけない、いけない。まだまだそう言うのはナシ。

「じゃ、祈里って今は呼んでくれる?」
「もちろん、喜んで」
また、嬉しそうにブッキーは笑うと、トリニティーの新曲を鼻歌で
歌いながら、アタシが途中まで作ったストラップにビーズを通し始めた。

「祈里」彼女の名前だからこそ、なんだかとても素敵でとても愛おしい
そんな名前に聞こえる。ね、これが特別って事でしょ?
だからアタシ、呼ぶ時に緊張するのかもね・・ってのは言い訳かな?





おわり


web拍手



※リクエストお題
「せつながブッキーのことを祈里と呼び捨てする事に対して嫉妬する美希」
 でございました。
 ヤキモチは妬けるけど相手が「せつな」だと感情のやり場が難しいですw
 ついでに祈里は美希ちゃんを呼び捨てにすると駄目な気がしますw
 



2010.1.27 wed  hina vike
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