ラブがせつなを口説き落としちゃうなんてね。正直驚いたってのと、どっちかって言うと
羨ましかった。アタシにはあんな風に出来ないからね。

だって、完璧を貫く為には、そう!失恋とかはあり得ないから。

■「秘密のリンクルン」

今日は学校が休みだから、いつもの様にみんなとダンスレッスン。の、予定なんだけど
本日は久々の雑誌の撮影。だからアタシは一人遅れて行く予定。

レッスン終了までに駆けつけられるかしら・・。スタジオの時計をちらちらと
見ていると本日の撮影にて一緒になった同期の子に声をかけられた。

「時計ばっかみてるー」
「え、あぁ、うん、まぁねぇ〜」
驚いて愛想笑いをすると、さらにニヤニヤしながら約束ぅ?なんて聞かれるから
うん、と素直に答えると、キャー絶対彼氏だぁ〜!なんて騒ぎ出す。

「いや、そういうのじゃないから」
まいったなぁ〜。慣れてるけど、正直こういうのめんどくさくて相手にしたくない
のよねぇ〜。大体、人に彼氏がいてもいなくても関係ないと思うんだけど。

「まったまたぁ〜!ね、携帯とかに写真とか入れて持ち歩いたりしてるんでしょ〜?」
「えっっ、あ、いや」
しまった・・・不覚にも「携帯に写真」という単語に見事にひっかかってしまったりして。
まさに、はい、入れて持ち歩いていますけどなにか?と言わんばかりの態度。

「持ってるんだー!へー蒼乃さんって意外と可愛い〜」
「え、そ、そう?」
意外とって何?意外とって!!だんだんとめんどくさいから頭に来始めたアタシを
爆発寸前のところで、スタッフの人が呼びに来る。

一息ついて頭を冷やす。こう言う場合は怒らない、怒らない。冷静でいなくちゃね。
だってアタシ完璧だし。



「・・って事があったのよねぇ」
結局ダンスレッスンには遅れたものの、ちゃんとミユキさんが復習と題して、
先にみんなが進んでたところをもう一度やってくれたので、きっちりと
レッスンに参加出来た。

「美希たん美人さんだからなぁー!彼氏いてもおかしくないのは頷けるなぁ〜」
いつものドーナツカフェでこれまたいつもの練習後の座談会。ここまでが
ダンスレッスンコースだったりして。
ドーナツを大きな口で頬張りながらラブが言うとブッキーとせつなまでうんうんと
頷く。でもね、写真入れてるってだけで「意外と可愛いわね」とか結構失礼じゃ
ないかしら?

「美希ちゃんのこときっと羨ましいんだわ、その人」
「えーなんでぇ?」
ブッキーは、だって、美希ちゃんってなんでも出来ちゃっておまけに美人だし。
なんていいながら、だんだんとうつむく。いつも言いながら自分と比べて自信を
なくしちゃうのがこの娘の悪いところ。

「やだ、ブッキーだってとても可愛いし、器用だし、素敵だと思うわよ」
「そうね、私もそう思うわ」
アタシのフォローにせつなも同意してくれて、ほんと?なんていいながら
またブッキーは上を向いてにこっと笑顔を見せる。

今はすっかりと馴染んだせつなはブッキーが徹夜して作ったダンスウェアを
完璧に着こなしている。こういうのをみるとデザインしたブッキーの服のセンスも
いい感じだと思う。と、いうか正直こういうブッキーの器用なところをみると私の方が
羨ましいと思うくらい。


「ね、美希、どんな写真入れてるの?」
「えぇ!?」
未だにちょっと空気が読めないせつなの直球がアタシの心にドスンと届く。
って言うか、それ、いま気になるところなのぉ〜!?・・とラブの目を見ると
どうやらラブも気になるのかちょっと前のめりになってアタシの様子を
伺っている。
ちらっとブッキーを見ると彼女まで目をキラキラさせながらアタシをみていた。

「や、別に特別な写真なんていれてないわよ?」
「そうなの?」
あっさりと引き下がりそうなせつなにちょっとほっとした瞬間に、ラブが
追撃し始めた。
「美希たん!美希たん!あたしたち親友だよね!」
「え?えぇ、もちろん!」
キラキラした目がグイっと迫って来てアタシを圧倒する。・・もぅ昔っから
ラブはこうなんだから。
「私も知りたいなぁ〜。」
「ぶ、ブッキーまで!」
1対3で非常に形勢不利。アタシピンチ!・・と!こういう時は逆に誰かを追い込めば・・
一番追い込めそうなのばブッキーだけど、彼女は駄目。せつな・・は読めない・・。
ラブは・・・うん、ラブに決めた。
「そ、そういうラブだって、どうなの?」
「ふえ?ナ二が?」
「リンクルンに好きな人の写真が入ってたりするんでしょ?」
急に自分に降り掛かったラブは一度キョトンとして、それからうーんと考えて
あぁ!!と叫んで、リンクルンを取り出して開ける。
「入れてる、入れてる!この間撮ったばかりなんだー」
と鼻歌でも歌いそうな勢いでマウスボールを回して写真を探す。そして、ほら!
と見せてくれたのは沖縄に行った時に撮ったのであろう、シーサーとラブ、せつなの
3ショットがそこにあった。
「えと・・シーサー?」
「ぅおい!せつなだよ、せつなぁ〜!あたしのお気に入り写真だよぉ」
ニヤニヤと白昼堂々大きな声で叫ぶものだから、聞いてるこっちの方が恥ずかしくなる。
「やだ、ラブ、そんなに大きな声で言われると恥ずかしいわ」
「いいじゃーん、だってあたしせつなだーい好きだよ!」
「ら、ラブったらっ」
最近気がついたけど、だんだんとせつなも顔に表情を出す様になってきた。
特にこうやってラブに好きだとか、ほめられたりとかするのはまだ、苦手みたい。
顔が真っ赤になってどうしていいのか分からない様に見える。

「せつなも入れてるの?」
「え?」
「好きな人の写真・・とか」
聞くとせつなはますます真っ赤になってギュッとリンクルンを握りしめて
知らないわっ!とそっぽむいた。するとえー!!とラブが声を上げて
せつなにリンクルンを見せる様に迫る。

「みせてよーせつなー!」
「いやよー!」

せつなが席を立って逃げるのでラブもおもしろがって追いかけ始める。
・・てかもぅ、目の前でイチャラブしすぎなんですけど、そこのバカップル。

「フフ、せつなちゃん幸せそう」
「ん、そーねー」
残されたアタシとブッキーは幸せそうなふたりをぼんやり見ていた。
・・うーん?これって・・もしかして・・

「ね、ブッキー、ブッキーは写真入れてるの?」
「え!?・・・・・・い、いれてな・・・」
「入れてるのね」
「いや・・・」
はぁ・・どこまでも判り易い・・・。きっと答えはYES。これはもしかして・・
お手軽にブッキーの気持ちを知る事ができるチャンスじゃない?
この手なら失恋のリスクが少なくて済むかも。

「見せなさい」
「えぇ!?み、美希ちゃんのだって」
「アタシは・・・」
そうよね・・よく考えると、ココでブッキーの好きな人の写真見ちゃって、
じゃぁ代わりにアタシの写真を・・って事になると、非常にマズい展開になっちゃうわね。
だって、アタシの写真は・・・。

「美希ちゃんが見せてくれるなら、わ、私のだって・・・」
「うーん・・・そっか、・・・・じゃ、いいや」
「え?いいの?」
「うん」
心なしか残念そうなブッキーが気になるけど・・ま、いいわ。このお話は
ここで終わりにしましょう。

「ラブちゃんとせつなちゃんは、両思いなのよね・・」
ブッキーは再び公園を駆け回るラブとせつなを眺めながら、
なんだったら羨望のまなざしという奴でポツリとつぶやく。
「え?りょ、りょう・・・」
小学生の時に聞いた以来ひさびさに聞くその響き。『両思い』。というか、
ブッキーも公認なわけね?あのふたりがそういう関係ってことを。
カトリック教系の学校に通ってるんだからそう言うのは駄目なのかと思ってたわ。

「いいなぁ・・両思い」
ブッキーの口元からため息と一緒に小さなぼやきが聞こえた。
本当に小さな声だったけど、アタシの耳にはしっかりと届く。

「ブッキー、好きな人がいるのね?」
「え?なんで!?」
「さっき、両思いがいいなぁ〜って」
「あ・・・」
言った本人は声に出ていた事に気がついていなかったらしい。そして、それが
わかると、見る見る顔が真っ赤になり、下をむいてモジモジとし始めた。

ブッキーは女子校だから他校の子って事かしら・・・。そう言えばラブ達の学校に
ブッキーに気がある、どっかの御曹司とかいうボンボンがいたわよね・・
うーん、それとも、もしかして・・・
チラッとラブ達をみると相変わらず公然にも関わらずイチャイチャと遊んでいる。

「まさかね」
聖女の様なブッキーに限って女の子が相手とか・・そんな事はあり得ない。
・・・それにしても、そんなブッキーに気に入られる人ってどんな人かしら・・。

「美希たーん!ブッキー!!あたしたちお母さんに呼ばれちゃったから先帰るねー」
いつの間にか公園の入り口の方まで移動していたラブに大きな声でそう伝えられた。
ラブに羽交い締めされてるせつながじたばたしながら何かを言っていたが
さらにラブに押さえ込まれてそのままアカルンで飛んで行ってしまった・・。

というか、もう少しいろいろと人目を気にしなさいよ!あなたたち・・・。

「帰っちゃったねぇ・・」
「そ、そうね」
「・・・・・」
「・・・・・」
しばらく続く沈黙。そしてそれを破ったのはブッキーのこんな一言。

「私たち、親友だよね?」
「え?えぇ!もちろん!」
「これからもずっと、親友でいてくれる?」
「何言ってるの、当たり前じゃない」
「・・・じゃ、美希ちゃんの好きな人、見せて」
「えぇ!?」

ななななななななななーーーーーーーー!?
なんでそんな話になるのかなー!!アタシは背もたれに思いっきりのけぞった。
「と、わっあっ・・あぁ!!」
足の細い椅子はアタシの体重が一気に傾いた事で後ろ側にむかって
思いっきり、倒れる。

「美希ちゃんっっ!?」

ガシャーーーーン!!っという大きな音とともにアタシの天地がひっくりかえった。

「イタタタ・・・」
後ろ頭をちょっと軽く打ったみたいでジンジンする。気がつくと目に涙が・・
相当痛かったのね、アタシ。目を開けると空がぐるぐると回っていた。

「美希ちゃんっだいじょーぶぅ?」
赤みのかかった空にひょっこりとブッキーの顔がのぞく。
うわー。今アタシの目の中にはブッキーしか写ってないのね・・。そう思うと
心がちょっとだけ弾む。

「ちょっと後ろ頭打っちゃったみたい・・」
起き上がろうとすると、ふわっと頭が軽くなった。そして、そのまま顔を右向きに
させられて、なんだか柔らかいくぼみにすっぽりと頭がはまった。

「美希ちゃん、ちょっと触るね」
なぜだか、さっきよりも近い位置からブッキーの声が聞こえる。と、いうか、
この位置関係って・・・?
「あ、イタっ!!」
ぼんやりと目の前に広がる倒れた椅子やら芝生やらを見つめていると急にヤワヤワと
頭のおそらく打ち付けたであろう部分を触られた。

「あ、ごめんっ!・・でもたんこぶが出来てるわ。帰る前に私のお家に寄って
 頭を冷やした方が良いと思うの。あと、傷が出来てないかお父さんに診て
 もらおう?」
「うん、わかったわ」
確かに、傷なんか出来てたら大変!次の撮影の時までに治さなくちゃ。
そんな事を考えていると急に頭をゆっくりと撫で付けられた。小さな頃に
ママにしてもらったか、どうかもわからないけど、やさしく、ふんわりと
頭をなでる、そんな動作はアタシを妙に安心させた。
「ごめんね、美希ちゃん、私が変なこと言っちゃったから」
「いいのよ、別に」
そっか・・わかった。いまアタシはブッキーの膝の上に頭をのせてるんだわ。
位置関係からやっと現状の自分たちの姿が浮かぶ。途端に心臓があり得ない早さで
動き始める。ドキドキなんてもんじゃない。ドの羅列。軽く握っているはずなのに
手のひらに汗をかき始めた。
「ぶ、ブッキー、もう大丈夫、ありがとう」
なんとかそう伝えて、まだ少しふらふらする頭を自分で押さえながら起き上がった。
下をみると正座したブッキーがこちらを見上げて良かった、なんていいながら
にっこりと笑う。ヤバい・・・なんて完璧な笑顔。

「大丈夫?」
「えぇ」
ブッキーに支えられながらジンジンする頭を抱えてブッキーの家に向かった。
道中全く先ほどの「好きな人」の話はしなかったけど、確実にアタシの中で
ブッキーの心の中にいるその人が気になってしまって、仕方なかった。



「よかった。美希ちゃん、なんともなくて」
なぜか成り行きで結局ブッキーのお家にそのままお邪魔する事になった。
と、いうのもママがブッキーのママのところに遊びに来ていたから。
という訳でついでに晩ご飯もご一緒させてもらって、今は大人達はダイニングで
酒盛り中というわけ。

アタシはというと、患部を冷やす為に医療用の保冷剤を包帯で頭にクルクル固定
されていてなんともイケテナイカッコに・・・。いつものヘアバンドも良くないと
言われて今は鞄の中にしまっている。

「でも、よかったの?お父さんの知り合いのお医者さん、いい人だよ?」
「うん、レントゲン撮るまでもないでしょ。大丈夫よ」
「そう、だったらいいけど」
昔から優しいブッキーはアタシの事をきっと心底心配してくれる。
幼なじみだし、大切な親友だし。・・・。親友かぁ・・。
ふと、アタシの心の中にブッキーの好きな人の話が沸き上がる。
どうせアタシじゃない。だってブッキーにとってアタシは幼なじみ。
そして、親友。親友だってナカナカなれるもんじゃないわ。
親友だって良いじゃない。アタシ。

ブッキーはアタシの気持ちを知ったところで、まぁ親友をやめちゃったり
しないわ。それは小さな時からずっと彼女を見て来たアタシだから判る事。


「ね、ブッキー。アタシのリンクルン、見て良いよ」
「え?」
「・・・見たいんでしょ?」
「・・・でも・・・」
自分で言った割には消極的なブッキーは相変わらず。そして彼女は自分の
リンクルンを取り出して、ギュッと握り締めた。心なしか震えている様な
気もする。・・そんなに見せたくないなら見せなくてもいいのに。
「いいわよ、アタシの分だけ見れば。ブッキーの分は、ブッキーが見せても
 いいと思ったらで」
「・・・でも、悪いわ、そんなの」
あぁ・・・このままだと埒があかないわね!アタシはリンクルンを
開いてマウスボールを回し、大好きな人の写真を出して彼女に渡した。
「・・・・!!!」
「良い顔してるでしょ?アタシの大切な人」
「・・・・・・・・・・」

アタシのリンクルンを持ったまま硬直してるブッキー。ま、無理もないわね。
だって、そこに写ってるのはこの間撮ったばかりの・・・

「こ・・・私・・・」
「そう」

そう、山吹祈里。アタシの幼なじみで、親友で、好きな人。

「本当に?」
「うん」
「私、信じてもいい?」
「うん、信じていいよ」

するとブッキーが怖ず怖ずと自分のリンクルンを開いて差し出した。

「ん?」
「わ、私のも見ていいよ」
「・・・あ、ありがとう」
予想外・・・。勢いで見せちゃって、勢いで乗り切ろうと思ったのに、
ペースを乱されてしまった。

完璧なアタシが誰かの目の前で失恋なんかしちゃったら完璧でなくなるし・・。
でも・・逃げ腰だってのもしゃくに障るわね。
アタシはリンクルンを受取り、自分のソレと同じ動作で動かした。
・・・・え?・・・

「それね、この間の雑誌の特集、あまりにも素敵だったから、紙面を
 カメラで撮っちゃったの・・・」
「・・えーっと、これ、ブッキーの好きな人の写真じゃなくて?」
「だから、それが・・・その人が私の・・・」

好きな人?っていうか、コレ・・

「ア、アタシぃー!?」

半ば裏返り気味の声で叫ぶと、ブッキーは真っ赤になってコクコクと頷いた。
てか、なに?それ、『両思い』じゃない!て、なんで気がつかないのアタシ!!
てか、ブッキーも!!!

「わ・・私・・美希ちゃんと両思いになれるなんて思わなかった」
「アタシだって!?聖人君子なブッキーがアタシのこと好きになるなんて思わないわよ」
っていうか・・・こういう場合はどうすればいいのかしら。
幼なじみ→親友→恋人?

「えーっと・・・つ、つきあってください?なのかな」
「へ!?・・あ、うん・・えーっと・・私も、こ、恋人になってください」
「うん」
・・・・・・・・えと、こういう物なの?アタシは何となく頭をかきむしると、
包帯を巻いていたのを忘れていて、指が引っかかり、包帯がほどけてしまった。
「あっ・・」
と声が聞こえて、アタシの側にふわっとブッキーの香りが近づく。
アタシがあげたブッキーのためのアロマオイルの香り。彼女は大切にいつも
つけてくれている。
ブッキーの手が間に合わなかったのか、包帯はほどけてアタシの目の前に落ちて、
鼻のところでひっかかる。
「ま、前が・・・」
目隠しになってしまったので包帯を取ろうとするとその手を取られて、急に
顔の前の空気が熱くなったと思うと、唇をやわらかな感触がかすめていった。
瞬間にアタシの体が驚く程の早さでカーッと熱くなる。
不意に手を離されて、空中を泳ぐ手が彼女の肩に触ったとき、目の前の視界が戻る。

「・・ま、巻き直したよ」
「うん・・ありがと・・」

真っ赤な顔したブッキーは視線を合わせてくれない。アタシもなんとなく、
恥ずかしくて俯いて・・・でも、やられっぱなしはアタシらしくないし。

「ブッキー」
「へ?」
「好きよ」
アタシの呼びかけに顔を上げた彼女の目の前に滑り込んで、そのまま軽く彼女の
唇へアタシの唇を合わせる。しばらーく。このまま。・・だって
この先なんて知らないもの。

だからゆっくりと10数えて唇を離すとウルウルとした彼女の目が飛び込んでくる。
あまりにも可愛くて仕方がないからアタシはギュッと彼女を抱きしめる。

「ダーイスキ」
耳元でささやくと、彼女もゆっくりとアタシの背中に腕を回して「私も、大好き」
と、ささやいてギュッと腕に力をいれた。

恋愛成就!アタシ完璧♪・・・・のはずが・・・。



「・・って!!せつなぁ!!」
「美希!聞いて!あのね!!」赤い光と共に突如ふたりの前に現れる、問題のバカップル。

「へ?なに?」
「ら、ラブちゃ・・せつなちゃ・・・!!!!」
アタシとブッキーは抱き合ったままふたりを見る。せつなは必死の形相で
アタシ達の様子もそっちのけでアタシの顔の前に近づいて何か訴えてる。

「だ、だからぁ〜せつな、落ち着いて、てか、あたしたち邪魔だしっね、」
「いいえ!私は美希とブッキーに幸せになってもらいたいの!」
珍しくずいぶんと鼻息の荒いせつながアタシの顔の前にぐいっと近づく。

「美希!」
「は、はいっ」
「ブッキーは美希のこと大好きなの!」
「は、はぁ・・・」
「せっ!せつなちゃん!?」
「あちゃー・・・」

慌てるブッキーに、がっくりしてるラブ。・・・なに?なんで?

「美希もブッキーのこと大好きなんでしょ?」
「え?え、えぇ・・・って!!なんで知ってるの!?」

せつなの瞳は純粋に充ち満ちていて、心底、アタシ達の幸せを
願っているのはよくわかる。・・・だけどねぇ・・・。

「たはーもぅ、美希たんごめんっ」
ラブがパンっと自分の顔の前で手を合わせて頭を下げた。
・・・なるほど、ラブがせつなに何かを吹き込んだってことね。

「あたし、美希たんがブッキーの写真をリンクルンで眺めてたの知って
 たんだよね。そんで、ブッキーが美希たんの写真を・・・」
「待って!ラブちゃん、私自分で言うから・・・」

へ?何?ブッキーまで。

「あ、あのね、美希ちゃん・・美希ちゃんがリンクルンの写真を眺めて
 いたのをラブちゃんが見た時に、私も一緒にいたの」
「えぇ!!!!」
なんですってぇ〜!!と、いうか、アタシ、どこでリンクルンの中の
写真なんて眺めていたのかしら・・行動が思い出せないわ・・。

「ごめんなさいっ!・・でも、私は実際、美希ちゃんのリンクルンの
 中が見えなかったから、ラブちゃんに、美希ちゃんが私の写真を
 眺めていたって教えてもらった時に、信じられなくて、きっと
 ラブちゃんの見間違えだって・・・」

・・なるほど・・だからあの時、ブッキーの態度がおかしかったのね・・・。
いつものブッキーだときっと「美希ちゃんの好きな人見せて」なんて言わないわ。
ん?でも、今の話から考えるに、ラブはブッキーの好きな人を既に知っていた・・
そんな感じよね・・・。

「お互いが思い合っているのに、すれ違うなんて、そんなの寂しいわ」
「だ、だからね、せつな、こういうのは自分たちで・・・」
未だに粋り立つせつなをラブはなんとかなだめようとしている。
そう・・知ってたんだ・・ラブは。ふーん。知っててあの時・・せつなが
言い出したのを利用してノリノリになって・・・アタシのリンクルンを・・・。

「ラブちゃん・・・せつなちゃんに話しちゃったの?」
「いや、だって、ほら・・ねぇこぅ、家族というか、夫婦間には秘密とか
 そう言うのだめかなーとか、アハハハ」
おぉ、黒ブキオーラが見えるわ。

「ブッキー、気を悪くしたら謝るわ。ごめんなさい。でも、私ブッキーにも
 美希にも幸せになってほしいの。だって、私、ラブといるととても幸せ
 だもの」
「せつなちゃん・・」
純粋って素敵よねぇ・・・最近せつなを見てると特に思う。

「せつなぁ〜、あたしだってすっごく幸せ!!幸せいっぱいゲットだよぉ〜」
「ラブったら・・みんなの前でそんな・・恥ずかしいわ・・」
「いいじゃん、だって本当の事だよぉー?あたし、せつなと一緒になって
 すっごくすっごく幸せなんだからさぁ〜アハハ」
「ラブ・・私も、凄く幸せよ・・」
・・・・前言撤回・・。

「・・・ラブ!せつな!!」
アタシは立ち上がりイチャイチャしているふたりを指差す。

「とっととお家へ帰りなさい!」

「キャイ〜ン」なんてラブがいいながらお騒がせバカップルは赤い光と共に
再び消えてしまった。
「あの・・ごめんね、美希ちゃん、もしかしてって言う希望があったのに、
 信じる事ができなくて・・自分の気持ちを言えなかった私が悪いの」
指を組んで俯いてしまったブッキーにアタシはフーっとため息を一つついて
「確かに」と言い、それからブッキーの肩に手をのせた。

「でも、アタシも一緒よ。アタシだってブッキーになかなか自分の気持ち
 打ち明けられなかったわ。だからおあいこよ」
「美希ちゃん」

顔を上げてふわりと微笑むブッキーはまるで花が美しく咲く瞬間のようで、
アタシの心はまた一つ大きく跳ね上がる。

「あーでもカッコ悪いわーアタシ、ぜーんぜん完璧じゃない」
ラブはまだしも、当の本人であるブッキーにその気持ちを知られてたなんて。
かっこわるいったらありゃしないわ。

「うーうん。ラブちゃんに背中を押されてたのに、私は怖くて言えなかった。
 でも美希ちゃんはちゃんと自分の気持ちを伝えたもの。だからやっぱり
 美希ちゃんはカッコいい・・だから完璧」

ブッキーはそう言いながら真っ赤な顔でアタシの肩におでこをつける。
あぁもぅ・・可愛いなぁ・・・。

アタシはブッキーの顎をすっと持ち上げて軽くキスをする。


「祈里も、完璧」


顔を見合わせてにっこりと笑い合う。せつな、大丈夫。アタシ幸せよ。


おわり


web拍手



※裏切り者の美希ブキですwでも十分にラブせつだと思うのですが
 だめですか?しかし・・・美希たんむずかしいーww



2010.1.26 tue hina vike
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