真っ赤な炎に包まれた森の中で傷ついたパッションは膝と手を地に付け、それでもなお
ノーザをにらむ。

「ハハハハハッ!・・無様ね、イース。あなたの言う幸せの力なんてこの程度なのよ」
「クっ・・・ノーザ・・」

そのノーザの前にはうつむいたまま、ふらりふらりと立っているピーチの姿があった。




  ■ 『倒せ!絶望の種!』




−−−−数時間前。

ダンス大会でシフォンがインフィニティ化してしまい、ラビリンスに捉えられた事で、
4人は取りあえず、今後の話をしようと桃園家に集まっていた。
そんな時、突然空間が裂けて彼女達の前にノーザが現れたのだ。

 「ノーザ!」
 「シフォンを返して!」
目をむくせつなを後目にラブがノーザに飛び込んだ。
 「あら、あらお嬢さん、元気がいいことね」
ノーザはサッとかわしてニヤリと笑う。
 「ラブ!」「ラブちゃんっ!」
美希と祈里が膝をついたラブの元に駆けつける。

 「何しに来たの!?ノーザ!シフォンはもうあなた達の手の中にあるんでしょ!」
せつながノーザの前に向かって叫ぶと、ノーザはアラアラと首を振って
せつなの前に瞬時に移動して目を細める。

 「インフィニティのお礼に今日はプレゼントを持って来たのよ、イース」
 「プレゼント!?」

ノーザの手のひらに光が集まる。

 「パッションはん!気ぃつけやぁ!!」
 「せつな!!」

タルトとラブの声にせつなは後ずさりしたが、ノーザの手の平には三角錐の様な物が現れ、
それをせつなに向かって差し出した。というよりも押し付けようとした。

 「駄目!せつな!!」

ラブが飛び込み、せつなを突き飛ばし、ノーザの手の中にあった三角錐は
ラブの背中にめり込んだ。

 「キャァアアアア!!」
 「「ラブ!!!」」「ラブちゃんっ!」「ピーチはん!」

 「チッ」

ノーザは舌打ちし、ふわりと後ずさる。

「せなかが・・熱い・・・・熱いよぉ・・」

ラブの背中から黒煙の様な物が上がり、それは見る見ると彼女の背中の中に
吸い込まれて行く。

「ラブっ!!」

近づこうとしたせつなは見えない何かで吹き飛ばされ、部屋の角に激突し、意識を失った。
続いて、美希や祈里も勢いを付けて飛びかかったものの、同じく弾かれてしまった。

「フ、まぁいい。今の状態のキュアピーチならゼツボーンがしっかり根を張るでしょう」
「ゼツボーン!?」

美希の言葉にノーザは笑って、解放されたインフィニティーの力によって出来た
絶望の種だと律儀に説明した。

「インフィニティを失った今のキュアピーチならゼツボーンをしっかりと受け止め、
 その根をはやす事ができるでしょうね。フフフ・・アッハハハハハ!!」

「なんて事!」

美希は立ち上がりノーザをにらむ、
「ブッキー!」
「うん」

「チェィンジ!プリキュア!ビートアップ!!」
美希と祈里は素早くリンクルンを構えてプリキュアへと変身する。

「パインはん!ヒーリングプレアー・フレッシュをピーチはんにむけて
 打ち込むんや!パインはんの技やったらゼツボーンだけを浄化できるかもしれん!」
「わかったわ!」

タルトのヒントにキルンを呼び出しパインフルートを奏でる。
「癒せ!祈りのハーモニー!プリキュア!ヒーリングプレアー!!フレーッシュ!」

イエローダイアの光がうずくまり、もがくラブを包む。

「そうはさせるか!!」
「あんたの相手はあたしよっ!」

ベリーが部屋のコーナーへジャンプし、反動を利用し、回転を付けてノーザへ
渾身のキックをお見舞いする。
「ぐあぁっ!!」見事ヒットし、ノーザがよろける。

「あぁあああ!!こんなところで暴れたらあかん!ピーチはんの家が
 壊れてまうで〜!!」
「私にまかせて」
「パッションはんっ!!」

頭を抱えてオロオロしていたタルトを抱きかかえ、気がついたせつなが
アカルンを呼び出し、ラブの部屋にいた全員をあの、占いの館があった森へと
飛ばした。

 
 ■□
 □■


「お前達ぃーー!!!」
移動が終わるや否やノーザがベリーに向かって飛びかかる。
腕をクロスにしてその攻撃をなんとかしのぐが、パワーに圧倒されてベリーは吹っ飛ぶ。

「せつなちゃん、ラブちゃんをお願いっ!」
「わかったわ!」

吹っ飛ばされたベリーに気がついてパインがすぐさまカバーにまわる。


未だ黄色い光に包まれているラブの側にせつなはタルトと一緒に駆け寄り
ラブに声をかけ続けた。

「な、なんでやぁ・・なんでパインさんの技が効かへんのやぁ」
「ラブ、ねぇしっかりして。お願いっ!」

せつなの呼びかける声も虚しく、ヒーリングプレアの光は効果なく消えてしまった。

「そ、そんなぁ・・」
「ラブっっ」

黒い霧の様な靄(もや)に包まれたラブをせつなは抱きしめる。
以前、ラブが彼女にしたように。

「ぱ、パッションはん!あかんっ!」
「うぅっ!!へ、平気よ、だってラブもこうやって私を助けてくれたんだから」
「せやかて、生身でそんなことしたら・・」

タルトの心配どおり、せつなの体力はゼツボーンにどんどん吸収されてしまい、
ついにその場にせつなは倒れ込む。

「あかん!プリキュアに変身するんやっ!!」

タルトはせつなのポケットからなんとかリンクルンを取り出す。せつなは
それに手を伸ばしてかろうじてプリキュアへ変身する。

「ラブ!しっかりしてっ!ラブっ!!」
「・・・せ・・・つ・・・な・・・」

ラブは残りの力を振り絞るかの様にキュアパッションの方をむき、
そして、ニコリと笑った。

「ラブ・・」

安心したキュアパッションは抱きしめる腕を緩めた。すると、ラブは突然
がっくりと力が抜けてその場に倒れこんでしまった。

「ラブ!!!!」

「キャァアア!!」

キュアパッションの叫びと同時にベリー、パインの悲鳴も聞こえる。
ふたりはノーザの持つ木の根の様な物に殴り飛ばされたのだ。
パッションはふたりの叫び声にハッとして、ふたりの元へ飛んで行く。


「あぁあああ、ど、どないしょぉ〜」
タルトがラブの近くでオロオロしているとピクッとラブの体が反応し、そして
跳ね返るようにラブが起き上がった。

「フフフフフ・・・キュアピーチ・・ついに根が生えたのね」
「な、なんやてー!?」

ラブのすぐ側に現れたノーザは、ラブの背中に手を当てる。
「なにするんやー!!」
「うるさいっ!」

タルトはノーザの手に飛びかかったが、反対側の手で殴り飛ばされてしまう。
「うあああああああああああぁぁぁ〜」
弧を描く様にタルトは森の奥へと飛ばされた。

「育ちなさい、絶望の木。咲かせなさい、絶望の花を」

ラブの背中はノーザが手を当てた辺りから何となくふくらみ始める。

「「ラブッ!!」」「ラブちゃっっ!!」

傷ついた3人のプリキュアはそれをただ、見ている事しか出来なかった。

「フフフフ、ハッハッハッハ!!!」

ノーザの高飛車な笑い声が辺りに響く。パッションの手を借りてなんとか
立ち上がったベリーとパインはラブを心配そうに見つめていた。

「さぁ、育つまでにまだ時間があるわね・・どうせならその手でプリキュアを
 始末してしまいなさいな、キュアピーチ」
ノーザはラブの肩に手を置き、そして次に耳元でこう、ささやく。
「どうせ、みんな死んでしまうのだから」

その言葉がまるでキーワードだったかの様にラブが反応して、
ノーザの言葉を反芻した。
「どうせ、みんなしんでしまうのだから・・・」

いつものようなラブの声ではない、とても落ち着いていて、
どこか寂し気で、そして、なにか押し殺した様な声だった。

「ラブ・・・」
せつなは消えそうな声でつぶやいた。


ラブはリンクルンを取り出し、そして低くつぶやいた。
「チェンジ、プリキュア・・・ビートアップ・・・」
黒い揺らぎを放ちながらもピンク色の光がラブを包み、やがて彼女はキュアピーチとなる。

「さぁ、キュアピーチ、どうせならこの辺り一帯もついでにプリキュア諸共破壊して
 しまいなさい」
「シフォン・・・守れなかった・・・私のせい・・」

ピーチの耳にはノーザの言葉も入っていないようだった。

「チッ・・まぁいい・・好きにすればいいさ」

ノーザはふわりと浮き上がり、高みの見物と腕を組んだままプリキュア達を
見下ろした。

「みんなどうせ、死んじゃうんだ・・」
ピーチのつぶやきに一番最初に気がついたのはベリーだった。
「違うわピーチ!あなたが悪いんじゃない!!悪いのはノーザ達よっ!」

パッションの肩を借りながらベリーは必死で叫ぶ。続けてパインも目を覚まして!と叫ぶ。
その声に反応してピーチが3人を見る。

「ピーチっ!!」パッションが叫ぶとピーチはウワァアアア!!と叫び、3人めがけて
飛びかかって来た。

「ふたりとも逃げてっ!!」

パッションが支えていたふたりを離して前にでて飛びかかって来たピーチを受け止める。
ふたりがぶつかった瞬間、回りの空気がものすごい早さで振動し、それはとてつもない
衝撃波を生む。

「ベリー!」
パインがベリーを抱えてからがら空中へ逃げ、少し離れた所に着地する。

「ありがとう、パイン・・」
「ベリー・・、美希ちゃん、もう無理よ」

パインはベリーを木にもたれかかるように座らせる。そんなパインだって
もうボロボロなのは一目瞭然だった。

「でも、ラブをとめなきゃ・・」
「わかってる、わかってるけど・・・」

厳格な美希は自分がくだけても友を助けたいと願う。
心優しい祈里はそんな美希の事を一番心配する。


「あぁああああああああああ!!!」
ピーチは狂気めいた雄叫びをあげながらパッションに遠慮なく攻撃してくる。
パッションはそれを受け止め、受け流すだけで精一杯だった。

  わかる、わかるのよ、ラブ。
  私だってそうだった。

  あの日、イースとしての寿命を宣告されたあの日、私は絶望で
  満たされていた。失う物も何もなければ、欲しい物も何もない。
 
  ただ、怖かった。一人で消えてしまうのが。
  寂しかった。ラブに会えなくなってしまうのが。

  私の心を幸せで満たしてくれたのはあなただから。

  だから!私は受け止めるっ!
  あなたがあの日私を受け止めてくれた様に!!

「はああああああ!!」
パッションの拳はピーチの拳にぶつかる様に、蹴り上げた足はピーチの腕に
当る様に、まるでダンスをする様に大事に大事に受け流す。
ふたりがぶつかる度に大きな音と衝撃波が繰り広げられ、次第に摩擦が起きて
側におちていた枯れ葉に引火し、途端に炎上する。


「パッション!!ピーチ!!」

ベリーとパインはなんとか体勢を調えて、炎の中のふたりを助けようと
飛び出した。

「あら、ここからがおもしろいんだから、あなた達はおとなしくしておきなさいっ
 ソレワターセ!」

ノーザがふたりの前にソレワターセの実を放ち、それはムクムクと大きくなり
立ちはだかった
「っ!!!なんで邪魔するの!!」
出ばなをくじかれたベリーとパインは思いっきりソレワターセに体当たりした。
ソレワターセはゆっくりと倒れて仰向けになる。

なおもピーチとパッションの元へ走ろうとしたベリーの足を伸びたソレワターセの
腕がつかまえて釣り上げた。
「キャァアア!!」
「ベリー!!」
パインはソレワターセの腕をキックしてベリーを確保する。
そして、着地と同時にふたりでバック転をし、地面を蹴り上げてソレワターセ
向かって「プリキュア!ダブルパンチ!!」を繰り出す。

「パイン!」「うんっ」

ふたりは互いに顔を見合わせてうなずき、それからキュアスティクを呼び出す。
「響け! 希望のリズム! プリキュア!エスポワールシャワー!!」
「癒せ!祈りのハーモニー! プリキュア!ヒーリングプレアー!!」

青と黄色の光に包まれたふたりのキュアスティックから「フレッシュ!」の
かけ声とともに、スペードとダイアの形が飛び出し、ソレワターセを押す。

「く・・・」

4人で放つグランドフィナーレでやっと倒す事が出来る相手なだけ、
ふたりの力では押し返されてしまうのだが、ベリーとパインは互いの
片手をつなぎ、改めて押し返す。

「はぁぁああああああ!!!」

すると青と黄をしていた光が一つになり、鮮やかな緑色に変化して更なる大きな
力を発揮し、ソレワターセを一気に押し返し、消滅させた。

「フン・・つまらないわねぇ」

横目で観ていたノーザはそう言うと、観ているだけでは飽きてしまったのか
ピーチとパッションの側に移動した。


「・・もう・・だめ・・」
ベリーソードを足下に落としてベリーは前に倒れた。それと同時に、ベリーソードに
宿っていた青い光が消え、そのままベリーの変身はとかれ、美希に戻ってしまった。

「美希ちゃんっ」
肩で息をしながら、パインは美希を抱えて炎が上がる森から少し離れた木陰に
避難して、そこで彼女自身も意識を失った。


 ■


「ピーチを・・・・ラブを返してっ!」
ゼツボーンを植え付けられたピーチの力は、徐々に強くなってきて、さすがの
パッションも体力の限界にいた。

「ラブを返してっ!」
土ぼこりと煤とでよごれた腕に再度力を込めてキュアパッションはヨロリと立ち上がり
ノーザに向かってもう一度吠える。

「馬鹿ね。キュアピーチは私の意思で操っているのではないのよ、ただ、ほんの
 少し、私がキュアピーチのココロに絶望感を植え付けただけよの事よ、ほんの
 少しね」

ノーザは上からパッションを見下ろしながらニヤリと笑った。
そんなノーザを睨みつけ、パッションはピーチの元に走り寄り、彼女の肩を揺さぶる。

「ラブ・・私よ、せつなよ、ねぇ、目を覚ましてっ!」
「シフォンが奪われたのも、世界がラビリンスに支配されるのも全部あたしのせい・・」

完全に光を失ってしまったピーチの目は、パッションをとらえようとはしなかった。
そしてピーチは右手を大きく振り上げてそのままパッションを殴りつけた。

「くあぁっ」

パッションをも激しく拒絶するピーチ。
その様をみて高笑いをするノーザ。

数メートル先に飛ばされ右肩から落下したパッションの体はそのままずるずると
砂埃を巻き上げながら地面の上をすべる。

「く・・・」

本当は体が引きちぎれてしまいそうなくらい痛くて熱い。もう、駄目かもしれない。
パッションはかすむ目をゆっくりと開けるとぼんやりと横たわる物体が見える。
それは、先ほどまで一緒に戦っていたベリーとパインの姿だ。
パッションよりも 多少戦闘経験の少ない彼女達は先に大きな痛手を負い、
変身が解除されると共に、戦闘から離脱してしまっていた。

「美希、祈里・・」

力のない自分が悲しくなる。ラブは全力で、命をかけて自分をメビウスの支配から
救い出してくれたのに。今の彼女自身、全力で立ち向かってもラブを、ピーチを
絶望の支配から救い出す事が出来ないなんて。

「どお、イース。友情だか幸せだか知らないけど、所詮強い力の前にはそんなもの、
 何の役にもたたないのよ」

ノーザの言葉に悔しくてパッションは砂利を握りしめた。

「どして・・・・どうしてこんな事するの!?シフォンはあなた達の物になったじゃない!」

くやしさから激しく地面をたたいた。

「そんなの、決まってるじゃない」

ノーザはふわりとパッションの側に降りてきた。

「裏切り者のお前が、どんなに愚かだったか教えてあげるためよっ!」
ノーザの足下にいたパッションは、ノーザに蹴り上げられる。


「あぁあっ!!」
パッションの体はボロボロの人形の様に天高く舞い上がり、次に地面へ向かって
落下する。もう、駄目だわ・・・。目をつぶってからだの力を抜いた・・・が、
パッションは叩き付けられる事なく、地面にふんわりと横たわる。

「キィー!」
「ア、カルン・・そう、・・ありがとう」

パッションの目の前に赤いピックルンが現れ、クルクルとまわる。パッションを
心配したアカルンが彼女を瞬時に地面へと移動させたのだ。
パッションはそんなアカルンを手の平にのせてまるで、抱きしめる様に
胸に当てる。すると、アカルンはまた彼女のもつリンクルンの中へと
戻って行った。

一度ギュッと手を握り、それから片手をついて、肩で息をしながら呼吸を
調える。片膝をついて、キッとノーザをにらむ。

「しつこいわね、イース!!あなたはラビリンスの人間なのよっ!!ここにいる奴らとは
 違う人間なのよっ!!」
なかなか諦めようとしないパッションにイライラが募り、ノーザが叫び散らす。

「違うわっ!いえ・・確かに私はラビリンスで生まれた。ラビリンスはメビウスの支配で
 全て管理されている国よ。だから私はそれが当たり前だと思っていた。」
パッションはゆっくりと立ち上がると、両手を胸の前で組む。

「だけど、ココに来て、ピーチやベリー、パイン、それだけじゃない、たくさんの人たちと
 接しているうちに、それは違うってわかったの!人は、誰かに管理されて生きて
 行くんじゃない、」

「自分の意志で生きて行くのよ!」
パッションは拳を前に突き出しノーザに掲げた。

「私は!ラビリンスで生まれた、ES-4039781、イース。だけど、ラビリンス出身の
 プリキュアがいたって可笑しくないわ、そうでしょ?アカルン」
パッションの呼びかけにリンクルンから赤い光が放たれ、アカルンが元気よく飛び出す。

「どこにそんな力が残っているというの・・」
口惜しそうなノーザは拳を力一杯握りしめる。

「私はイース・・・だけど・・キュアパッションなのよ!」
パッションが拳を振り下ろすと、アカルンが光を放ちながら、回転し、赤色が
白金色へと変化する。そして、パッションの周りをクルクルと取り巻く様に回り、
彼女は光に包まれた。







「・・・み、美希ちゃん・・大丈夫?」
気を失っていた祈里が意識を取り戻し、よろよろと側で倒れる美希の側へと
足を進める。
「えぇ・・・なんとか・・・」
祈里の声に美希も気がついて起き上がる。
2人の無事を確認しあい、それから炎に包まれる数メートル先の森を
見つめる。
「ラブ、せつな・・・大丈夫かしら・・・」
「きっと大丈夫よ、私信じてる」
祈里の言葉に美希も大きくうなずく。

「べ、ベリーはーん・・パインはーん」

美希と祈里の頭の上から聞き覚えのある特徴的なイントネーションの声が2人を呼んだ。
「タルト!」「タルトちゃんっ!」
2人が上を見上げるとそこには右足が木の枝にひっかかり、
逆さづりになった状態のタルトが風にゆらゆらと揺れていた。
「なにしてるの!?」
「いや、なにしてるってぇ・・ノーザに飛ばされて木に引っかかったンはええけど、
 片足が枝にからまってしもて、動けなくなってもぅたんやわ・・」
ベリーの問いかけに、遊んでいるわけではないと必死に説明するタルト。

「とにかく、助けてあげるからね」
祈里はリンクルンを取り出し、構え、キュアパインにチェンジする。
そして、木の上までぴょんぴょんと飛び乗り、タルトの足をしっかりと
つかんでいる木の幹を振りほどいてタルトを無事に救出した。
「お、おぉきに」
タルトは地上についたパインの腕から飛び降り、ふたりの前で頭を下げた。
「よかった・・あとは・・・」
美希は再び炎を見上げた。
「あそこにピーチはんとパッションはんがおるんやな」
タルトの問いかけにふたりは無言でうなずく。そして、助けに行かなきゃ・・
と美希が立ち上がろうとするがうまく、立ち上がれない。
「美希ちゃん、立てる?」
パインが美希の手をとると、美希はありがとうと笑って、パインの手を借りて
立ち上がる。

「なんや・・・酷くやられてしもたんやな・・・」
タルトが心配そうに美希を見上げる。そして、何か思いついたように、
背中のクローバーボックスを下ろしてゆっくりとオルゴールを鳴らし始める。

「タルトちゃん、どうしたの?」
「クローバーボックスにはプリキュアの力を少しでも回復してくれる力があるかもしれん!!」

タルトが必死にレバーをまわすと、メロディーにのってらせん状の光がゆっくりと
立ち上り始める。

「は!・・・ふにゅににいいい!!」
立ち上光をみたタルトは更に力を込めてレバーを回す。
すると、らせん状の光がパインと美希を包み込み、青い光に包まれた美希は
ベリーの姿に戻り、パインの拳には力が蘇る。

「すごい!!」
「すごいわ!タルトちゃん!!」

力が回復したふたりはお互いをみてうなずく。
「私達、あの2人を助けなくちゃ!」
「はぁ、はぁ、ちょ、まってぇな、おふたりさん、」

役目を終えたタルトはしりもちをつきながら今にも飛び出してしまいそうな勢いの
ふたりを呼び止める。

「どうして?タルトちゃん」
「わ、ワイに作戦があるんやけど・・どうやろか?」

ベリーがタルトを抱えて目線へとつれてくる。
おおきに、とタルトはベリーにお礼を言って、続けた。

「ピーチはんにとりついとるゼツボーンは絶望の結晶や!せやから、ゼツボーンを退治する
 ためには、ベリーはんの希望の力、パインはんの信じる力、それからパッションはんの
 幸せを思う心の力を同時に当てるンや!」
「そ、そんなことしたら、ピーチが・・・」
タルトは心配するベリーの方にくるりと向きかえり、今はこの作戦しかあらしません!
と諭すようにベリーに答えた。

「ベリー・・・」
「わかったわ、やるしかないのね」
パインはうなずき、そして、3人は燃え盛る炎めざし走り始めた。







「い、一体何が起きているというの?」
思わぬ出来事にノーザはひるんだまま光に包まれたパッションをみつめる。
そして無表情だったピーチの口元がかすかに動く。

パッションを取り巻いた光は次第に大きくなり、やがて爆発するように
すさまじい閃光と共に辺りに広がった。
すると、周りを囲んでいた炎が一気に吹き飛ばされ、消火される。

「なにぃーーー!!」
ノーザもその爆風のような衝撃波に吹き飛ばされ、最寄の樹に激突する。

「うわぁ〜!!なんや〜!!」

同時に炎を目指して走ってきた3人も凄まじい閃光に腕を掲げおののく。
「ピーチ!!パッション!!」
ベリーとパインが同時に叫ぶ。
「な・・・なんやーあれ・・・ぱ、パッションはんが・・・」
片目を薄っすらと開けてまぶしさと戦いながら、タルトはパッションの姿をみつけ、
その姿がいま、まさに変貌しようとしている様を目の当たりにする。

「あれは・・せつなちゃん・・・?」
「いや、あれは・・・イース!?」
吹き飛ばされないようにしっかりと踏ん張りながらパインの言葉に、
ベリーはかつて、せつながメビウスに支配されていた頃の姿を思い出し、
その名を口に出す。


光の束がパッションに吸収されるように、それぞれのパーツへの密集する。

パッションの長い髪はかつてイースだった頃の様に短く、銀髪に。ティアラの両橋に
付いているハートには、白金色の三日月を二つつなげたような見覚えのある羽飾りがつき、
背中には大きくスリットの入った真っ白なマントが現れて、彼女を包み込む。
そして右手のグローブの甲に当る部分にはかつてラブからプレゼントされた
緑色の四葉の模様が白金色に縁取りされて入っていた。

そして、本来の赤い色に白金色をまとったパッションは、颯爽とマントを翻す。

「真っ赤なハートは幸せの証!」
そして逆の方向からパッションは手をかざし、叫ぶ。
「プラチナハートは勇気の証!」
高らかに手を叩き、クロスした腕を胸にあて、熟れたてフレッシュ!と叫び、
「キュアパッション!!!プラチナフォーム!!」
と、いつもよりも増して堂々と晴れやかに口上を叫んだ。

「あ・・・あれは・・・」
タルトは目をうるうるさせる。事態がよくわからないベリーとパインはタルトに
何が起きているのかを問いかける。
「あれは、パッションはんが、自分をラビリンスでうまれ育ったイースという事を
 認めたんや、そんで、その自分自身を認めるっちゅー勇気が力となって
 アカルンに新しい力を呼び込んだンや」

ベリーとパインは笑顔で心から「すごいわ!パッション!!」と叫んだ。

「ノーザ、イースである事を認めた私が、こうやってプリキュアでいられる。ラビリンスの
 人間だからとか関係ない。人は自分の力で未来を選ぶ事が出来るの!」
「えぇーーーい!!うるさいっ!!」
「はぁあああああ!!」

パッションはノーザの拳を寸でで交わし、ノーザの腹部目掛けて力いっぱいパンチを
打ち込む。

「がはっ!!」
ズンっという音と共に空気が震え、パッションの拳は完全にノーザの腹部を捕らえる。
そして間髪いれずに扇風脚をうずくまるノーザに決めて、ノーザは弾丸のように
弾き飛ばされる。

「パッション!!」
「ベリー!パイン!!」

駆けつけたベリーとパインの無事を確認して、パッションは安堵に胸をなでおろす。

「おのれぇええ!!!調子に乗るなよプリキュアー!!!」

ノーザが空に舞い上がり、背中から鋭利な木の蔓の束を3人目掛けて繰り出す。
「みんな!あぶない!」
タルトが叫ぶが、油断していた3人は除ける体勢を作れず、目をつぶり、ぐっと
その攻撃を受ける体勢をつくる。

「な、なに!?」
3人の目の前でゼツボーンに支配されているはずのピーチがその攻撃を受け止めた。
そして、その蔓を抱え、ノーザごとふりとばす。

「「「ピーチ!!」」」「ピーチはん!」

ゼツボーンは大きく育ち、ピーチの背中から蔦のようなものが現れ彼女の手足に巻きついていた。
しかし、そのゼツボーンの支配をピーチは解いてノーザの前に立った。

「あ、あたしは・・・プリキュア・・・・キュアピーチ・・・」

かすかに口が動いて搾り出すような声でピーチが呟く。そして、光を失った目から涙がこぼれる。

「チッ、ゼツボーンの効果がイマイチ発揮しないようね」
ピーチに投げ飛ばされ、着地したノーザは離れた場所からピーチの様子をみて呟いた。
すると、ぼんやりとホログラムが現れる。
「ノーザ、お遊びはそろそろおやめなさい」
「クライン・・・」
「メビウス様がお呼びだ」
「そう、わかったわ」

そういうとノーザは空間を切り開き、そして、その中に入る前にピーチに向けて、
更に絶望の力をそそいだ。

「あぁあ!?」
黒い靄に包まれたピーチはその場にひざまずく。
黒い霧が飛んでき方向を見たベリーがノーザ!!!と叫んだ。

「あとは、あなたたちで遊んでらっしゃい・・・」
「待ちなさい!ノーザ!!」
パッションが飛び出したがノーザは高笑いをしながら空間へと消えていった。


「絶望しかない・・・」

「え?」

ピーチの呟きにパインが聞き返すと、ピーチはパインの方向を向いて瞬間移動のような速さで
パインの目の前に現れ、そしてパインを蹴り飛ばした。

「パイン!!」
次は叫んだベリーの声に反応してベリーを殴り飛ばす。

「あわわわわ・・」
それぞれ飛ばされたプリキュアの真ん中にいたタルトが一人取り残され、完全にピーチと
一対一で向き合う。

「ぴ、ピーチはん、おちついてぇな・・」
無言でピーチが振り構えた瞬間にパッションが現れピーチの振り上げた拳を握る。
「ぱ、パッションはん!」
「タルトはベリーとパインを!」
「まかせとき!」

ピーチは体を回転させ、今度は蹴りを入れてくるが、パッションもまけじと体を翻して受け流し、
ピーチの腕を再びつかむ。
「ピーチ・・・ラブ!あなたは私を助けてくれたわ!」
再びふたりの激しいスパーリングが繰り広げられる。

「あなたは、イースだと知ってもなお、私の事を友達と、大切な人だと言ってくれたわ」
「イース・・・」
風を切る様な音の中でパッションはせつなとして、イースとしてラブに
語りかけた。
「あなたのおかげで私は幸せという気持ちを知ったわ」
「幸せ・・・」

ピーチの拳がだんだんと弱くなる。
「そう、私、今、あなたと一緒にいる事が出来て、とても幸せよ、ラブ」
「せ・・つ・・・・・・・な」

パッションはピーチを思い切り抱きしめた。
「くぅっ!!」
「うわぁ〜!!!!」

全身にビリビリと痛みを受けながらもパッションはよりいっそう抱きしめる力を強める。
そしてパッションから放たれる赤い光に包まれたピーチはもがき始める。
「私はあの時、あなたがこうやって空から私の元に舞い降りて、抱きしめてくれた事を忘れない」
「ああああああ!!!」

イースだった頃の記憶がモノクロームになってパッションの頭の中で再生される。
ナキサケーベの痛みからピーチによって開放された瞬間。
それは痛みの涙ではなく、嬉しいと言う気持ちの涙だったのかもしれない。

「パッション!」
「ピーチ!!」

タルトとともにベリーとパインが駆けつける。ビリビリと震える空気の中心に
パッションに抱きしめられてもがくピーチがいた。

「よし、ベリーはん、パインはん、今や!ピーチはんに向かってそれぞれの力を
 打ち込むンや!」
「わかったわ!」
「やってみる!」

ベリーはパッションの側にいき、パッションはなれて!と叫んだ。
ベリーとパインの動きを見て、何か策があるのだと感じたパッションはピーチを開放し
自分もタルトの側に移動する。

「パッションはん、細かい話は後や!ベリーはんとパインはんと一緒に幸せと思う
 心を打ち込むンや!」
「・・それって・・ハピネスハリケーンのこと!?」

タルトがうなずくと、パッションはベリーとパインをみる。2人は何も言わず、
ただ、強くうなずいた。

「わかったわ。やってみましょ」

パッションによってゼツボーンの力を消耗したピーチはフラフラとその場に立っている。

「ピーチの背中を目掛けて!いくよ!」
ベリーの合図で3人は三方向に散らばる。そして真ん中にいるピーチに向き合う。

「響け! 希望のリズム! プリキュア・エスポワールシャワー!!フレーシュ!」
「癒せ!祈りのハーモニー!プリキュア・ヒーリングプレア!!フレーシュ!」
「吹き荒れろ!幸せの嵐!!ハピネスハリケーン!!」


ベリーソードから発せられた青いスペード形の光がブーメランカッターのように
ピーチに巻きつくゼツボーンの蔦を切り落とし、パインフルートから発せられた
黄色いダイア形の光がピーチの腹部から背中へ貫通し、ゼツボーンの種を
押し飛ばし、パッションハープから発せられた無数の赤いハートが絶望に打ち
ひしがれたピーチと飛び出したゼツボーンの種を浄化する。

「ぐあぁああああああ!!」


ピーチの背中から完全にゼツボーンの根が離れ、ピーチはその場に
膝と掌をついて肩で息をする。


「よっしゃぁ〜!!やったでぇ〜!!」

「ピーチ!!」
「まだよっ!」

ピーチへ飛び込もうとしたパッションにベリーが慌てて忠告する。パッションが
気がついて見上げると、ピーチの体から抜け出したゼツボーンの種が変化
し始める。

『ゼツボーン!!』

四肢が生え、ゼツボーンはソレワターセのように大きくなった。

「パイン、ベリー!!ピーチをたのんだわ!」
「パッション!」

パインとベリーにピーチの救出を任せて、パッションはゼツボーンへと立ち向かう。
翻るマントをみて、パインとベリーはうなずいて倒れているピーチの元へと急いだ。

「あなただけは絶対に許せない!」

ゼツボーンの頭目掛けてパッションは蹴りをいれる。すると、ゼツボーンの大きな
巨体はグラリと傾き、ゆっくりと大きく横転する。

「私の大切な人を苦しめた!あなただけわ!!」

ゼツボーンは転んだまま腕を大きな蔦に変えてパッション目掛けて発射する。
しかし、パッションはその間をスルスルと交わして、今度はパンチを食らわせる。

「絶望なんて!いらないわ!!」

パッションはハープを脇に抱える。

「吹き荒れろ幸せの嵐!貫け!勇気の矢!!」

パッションハープの片側が大きくなり、弦が一本だけ伸びる。赤いハートの部分が
白金色に輝く。

「ハピネスハリケーン!!プラチナアロー!!!」

赤色のハートが矢尻へと変化し、大きく変化した弦をゼツボーンに狙いを定めて弾くと
無数の矢となったハートが一斉にゼツボーンの向かって発射される。
白金色の輝きを帯びながらハートたちはゼツボーンを次々と射抜き
ついにゼツボーンは浄化される。

 『シュワシュワー!!』


「やったわー!!」
「よかったぁ〜!必ず倒せるって、私信じてた!」
ベリーとパインは飛んで喜ぶ。
「よ、よかったぁ〜」
絶望の淵から生還したピーチは起こしていた体を倒して、草っぱらに
寝転んで空を見ながらホッと安堵のため息をつく。

「みんなっ!!」
「やったね!パッション!」
「凄いわ!パッション!」
「ありがとう・・ピーチはどう?」
「ピーチはんやったら、ほらあそこで大の字に寝転んどるで〜」

ベリー、パイン、タルトに迎えられたパッションはテレながらお礼をいい、
先ほどまで戦っていたピーチに近づく。

「わたしも転んで良い?」
「うん、いいよ!」


あの時も2人で戦った後にこうやって草っぱらに寝転んで
空を見上げたっけ。パッションはそう思いながら、あの時とは違う
抜けるような冬独特の青空を眺めた。

「久しぶりだね、イース」
「・・・ピーチ・・・」
パッションにとっては一番気になる所であり、こんな私でも
本当に受け入れてもらえるのかどうか一番心配なところであった。

「あたし、なんとなく会いたかった。もう一度イースにさ」
「?」

ピーチの言葉にパッションが?という顔をすると、ピーチはパッションの方を
向いてそれから上を向いて

「だって、せつなも、パッションも今は一緒にいるけど、イースだけは
 あの時、お別れしちゃったままじゃない?」
「ピーチ・・・」

ピーチはむくりと体を起こして、パッションを反対側から覗き込んだ。

「だから、おかえり、イース」
「ピーチ・・・・・・・た、ただいま」

パッションは目をうるうるさせながら震える声でただいまと告げる。
するとピーチとパッションの変身が解けて、ピルンと元にもどったアカルンが
2人の周りをくるくると回りながら遊ぶ。

元にもどったせつなは体を起こして、それからラブと顔を見合わせて笑う。


「ありがと、せつな」
「ううん、私こそ、ありがとう、ラブ」

涙で鼻の頭が少し赤いせつなは指で、溢れる涙をすくって、それからまたへへと笑う。

「うひゃぁ〜可愛いせつな、ゲットだよぉ!」
ラブががばっとせつなを抱きしめるが、今回は負けとせつなもそれに答える。
「大好きよっ!ラブっ!」
せつなの勢いあまってラブの方へとまた倒れこむ。それでまた2人で笑う。

「ちょっとー!!あたし達のことわすれないでよー!」
「美希ちゃーんまってぇ〜!」
「ベリーはん、パインはん、ちょ、おいていかんといてーなぁ〜」

駆けつける3人をみてふたりは立ち上がり、手をつないだまま3人の元へと急ぐ。
美希、祈里、タルトに心配かけたことと、助けてもらった事を感謝してラブは
一人一人、顔をみてうなずき、

「よぉし!みんなー!このままシフォンもゲットだよ!!」
「「「「おーーー!!」」」
と全員で声高らかに拳を突き上げた。






おわり。


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※今回はめずらしくシリアスめ&色々設定は無視したり、勝手に作ったりしてしまいました。
 すいませんw



2010.1.17sun hina vike
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