『前髪の行方を鏡とにらめっこ』

「こう言う時、前髪ってどうしたらいいのかしら・・」

この世界には夏があって秋があって冬がある。
冬というのは「暑い」夏と正反対でとても「寒い」。
 
ラブと過ごす様になってから初めて経験する事ばかりで、
冬にお出かけをする時は洋服をたくさん着なきゃいけない。
ちょっと面倒くさいと思うけど、美希に言わせてみれば、

「露出が少ない分、女の子度が落ちちゃうから、そこをいかにカバーするかが重要よね」

だ、そうで、基本は寒いからと言っても着膨れないようにしなくてはいけないらしい・・。
色々と大変だけれど、洋服の話をしているときの美希はキラキラしていて
素敵だと思う。私はそんな美希を見るのが好きだ。見ているこちらまで嬉しくなる。

「これ、かぶると髪の毛がぺたんこになるのね」
ラブから渡された「ふかふかの毛糸」で編んである帽子を、今日のお出かけの時に
かぶってみようと思うのだけど、なかなか上手くかぶれないでいる。

深くかぶると前髪が目の前に降りて来て前が見えなくなるし、
浅くかぶるとなんだか自分の頭が2倍にふくれあがった様に見える。

「フー・・今日はこれ、かぶるの辞めよう」
帽子を取ると、やっぱり髪がぺたんこになっている。
本当は直したいところだけど、そろそろ出かけなくてはいけないし・・。

「せつなぁー、そろそろいくよー!」

開けっ放しにしていた部屋のドアからラブの顔が鏡越しに見えた。

「うわぁ〜!せつな、そのニット帽かぶってくれるのぉ!?」
「え、あ。・・う・・ん。でも、どうかぶったらいいかわからなくて」

私の答えに「えーそんなのぉ」とラブが私の隣に立つ。
そして、二人で鏡の前に並んで、鏡の中のお互いと話をし始める。

「アタシにかしてごらん」
「うん」

ラブにその「にっとぼう」と呼ばれる帽子を手渡すと、嬉しそうに帽子の口を
両手で伸ばして背伸びする。

「じっとしててね、せつな」
「うん」

私の前に回り込んで私の頭に帽子をぎゅっと深めにかぶせる。
すると、案の定前髪が目の前に降りて来て何も見えなくなる。

「ちょ、やだ、ラブ、前が見えない」
「アハハ、大丈夫だよ、ここからね、前髪を・・」

ラブの指が私のおでこから頬をなでる様に優しく動く。
同じ様に反対側にも。

「あ・・」
「ほらね」

開けた視界に一番に飛び込む幸せそうなラブの顔。

「ほら、見てみて、せつな!すっごくよく似合ってるよ!」
「そ、かな・・・あ、りがと」

 くるりと私の後ろにまわったラブは、私の両肩に手をのせ、
鏡の中の私に再び話しかけた。
なんだか自分の顔を見ながら話をするのが恥ずかしくて、顔が熱くなる。
ラブはウンウンとうなずく。

「素敵なせつなを見つける事ができて、また一つ、幸せゲットだよ!」
「ら、ラブったら・・」

とんでもなく恥ずかしい事を平気でさらりと言って退けるラブは
どんどん私の心の中に入って来てしまう。だから、たまに怖くなってしまう。
アナタがもしいなくなってしまったら、私の心に穴が空いてしまいそうだから。

「ん?せつな、あまり気に入らない?」
「え?・・そうじゃないわ。とっても気に入ってる、ほんと、ありがと」
「でも、なんだか不安な顔してる」

鏡越しに背中のラブと話をしているのにも関わらず、ラブは私の心の曇りを
瞬時に見つけてしまう。私自身で自分の事に気がつくよりも早く。

「うはっ!もうこんな時間っ!!いそがなくちゃ美希たんにまた怒られちゃうっ」
「フフ、なだめるブッキーにも迷惑がかかるわね」

ラブと顔を見合わせて笑っているとタルトとシフォンが私達を呼びに来る。

「お!パッションはんっ今日の帽子はかなりいけてますなぁ〜」
「ありがと、タルト」
「ワイもステキな帽子ほしいわ〜」

タルトが腕組みをしているとシフォンがうれしそうに耳をうごかした。

「ボーシー!!」
「おぉわぁ〜!?何やこれー!!」

「アハハッ!タルトそれいい!」
「うん、とてもよく似合ってるわ」

お父さんがブッキーのお父さんと一緒に開発したペット用の
「カツラ」という付け髪。改良に改良をかさねて更に
バージョンアップした物。だそう。

「ちょ、待ってーな、こんなん全然前が見えへんがな〜」
フラフラと私の鏡の前にタルトは移動する。

「ミキー!!」

シフォンの言葉にラブはハッとして、「いくよっ、シフォン!」とシフォンを胸に
抱きかかえ、足早に出かける。

「ほら、せつなも早く!」
「あ、うん」

ラブの声につられて私もラブの後に続く。
「せつな、ちょっと走るよっ」
「え!?」

手を差し出されて、当たり前のようにつなぐ。当たり前だけど、何度も何度も
手をつないで歩いたけど、だけど、一つ一つどれも大切な瞬間。

「幸せ」の瞬間。

「よぉーーーし!スーパーラブダッシュー!」

急にスピードを上げるから、せっかくラブにかぶせてもらった「にっとぼう」が
頭からずれていく気がして、気が気でならない。

「ちょ、ラブゥ〜!!帽子がっ」
「きにしないのー!!」
「でも、せっかくかぶせてもらったのに」
「だいじょーーーーぶ!何度でも直してあげるよ〜!だってさー」

走りながら大きな声でラブが叫ぶ。

「ずーっと一緒だからねーーーーー!!」
「ラブ・・」

また、心の中が一つ温かくなる。ぽたりと落ちる雫のようにラブの
優しさが、私の心の中に落ちてくる。これはきっと幸せのゲージ。

「せつなと一緒に幸せゲットだよー!」
「うんっ」

分厚い雲の間からきらきらと光る光のカーテンが地上に向かって
降り注いでいる。まるで神様が降りてくるような光。
これは太陽の光らしい。ラブが教えてくれた。

そして、それは、とてもラブに似ていると思った。


終わり



というか、その後のかわいい妖精さんは・・

「うーん、前髪がうまくいかへんのやけど・・・ってあれ!?ピーチはん!?パッションはん!?」
「しふぉーーーーーーん!!」

オチ?
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※「タイトルは某魔法先生のOPからw」



2009.12.13sun hina vike
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